The NNA Asia: ターゲットは日本市場 - ベトナムウエハーの挑戦(下)
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- 10月1日
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ターゲットは日本市場
ベトナムウエハーの挑戦(下)
ベトナム半導体企業ベトナムウエハー(ホーチミン市)は半導体の国産化の基盤づくりに続き、海外展開 で日本市場を最重要視する。2024 年に東京に現地法人を設立し、品質要求が厳しい市場で信頼の獲得を狙 う。米国や韓国にも拠点を構え、国際基準の品質試験体制を国内に整えることで、生態系(エコシステ ム)の強化を進める。短期資金より戦略的パートナーを重視する姿勢を貫き、ベトナム発の素材メーカー として国際的な地位を築こうとしている。
ベトナムウエハーは、石英からシリコンウエハーまで を一気通貫する供給網づくりを目指している。石英を高 純度石英(HPQ)に精製して石英るつぼ(溶解容器) を作り、インゴット(塊)を鋳造後、円盤状に加工して シリコンウエハーに仕上げる。この一連の半導体前工程 では、どの段階でもコストの安定化、品質の確保、持続 的な供給体制が成功の鍵を握る。
一貫生産に向けたロードマップ(行程表)は段階的 だ。24 年に相手先ブランドによる生産(OEM)を通じ てHPQの生産に成功。27 年に石英るつぼ、28~30 年 にインゴットとウエハーの国産化を、それぞれ目指す。 ウエハーは直径6インチ(約 150 ミリメートル)がタ ーゲットだ。世界では8インチや 12 インチが主流で6 インチは先端ではないが、電力制御に使うパワー半導体用途では依然として需要が高く、競争も激しくない。チ ャウ・ホアン・ロン最高経営責任者(CEO)「われわ れは最初からハイエンドで勝負するつもりはない。6イ ンチ市場で信頼を築くことが第一歩になる」と、現実的 な選択をした。
東京に現法設立

海外展開の最優 先は日本だ。東京に 現地法人を設立し、 最も厳しい品質要 求に挑む。ロン氏 「日本は最も厳しい 市場だが、だからこ そ一度信頼を得れ ば揺るがない関係 になる」と話す。既 に提供したHPQ のサンプルは6N (99.9999%)規格を 満たし、複数回の試 験で安定性を示し たという。半導体関 連事業者だけでな く、顕微鏡用やカメラ用ガラスなどフォトニクス事業者を顧客として開拓 することを狙う。6インチのシリコンウエハーは日本の パワー半導体メーカー向けへの供給を目指す。
さらに地域ではマレーシアを意識する。同国は世界的な後工程の拠点として産業基盤を先行させているが、前 工程はまだ発展途上。ロン氏は「まず追いつきたい」と 語る。マレーシアは直接の供給先ではないが、国内産業の底上げを考える上でベンチマークとなる存在だ。イン ドも政府が半導体産業育成を進めており、将来的には素 材やウエハーの新たな需要地になると見込む。
米国と韓国にも拠点を設け、市場調査や技術連携を進 める。さらにベトナム地場で後工程に参入したばかりの CTセミコンダクター(CTS)と協力し、ベトナム国 内に国際基準の品質試験体制を整備中だ。CTSは、ベ トナム地場初の 100%資本による半導体後工程請負企業 (OSAT)を目指しており、クリーンルーム付きの組 み立て・パッケージ工場を年内に完成させる予定だ。C TSとの協力を通じて評価リードタイムを短縮し、国産 エコシステムの強化につなげる。
資本政策でも短期資金より戦略的一致を優先する。 「短期資金に頼れば軸はぶれる。資本の質を選ばなけれ ばならない」とロン氏は強調した。
競合には石英るつぼメーカーのシベルコ(ベルギー) やクオーツ・コーポ(ノルウェー)、HPQメーカーの ロシアン・クオーツ(ロシア)が存在する。ロン氏は 「彼らは巨大だが、ベトナムの資源を持ってはいない。 われわれは地の利を活かし、上流から積み上げて競争し ていきたい」と語った。
(本連載は坂部哲生が担当しました)
<NNAの視点>
ベトナムにウエハーの製造会社があると聞いたとき は耳を疑った。さらに驚かされたのは、経営トップ自 らが現場に赴き、石英の鉱床を探し当て採掘していた ことだ。
ロンCEOの話を聞く中で見えてきたのは、資源を起 点に国産化へ挑む現実的でしたたかな戦略だった。高 額投資を要する最先端ではなく、まずは6インチ市場 で信頼を築く方針は理にかなう。しかも政府の税制優 遇や研究開発支援、地場OSAT企業との連携など、 国内エコシステム形成の芽が育ちつつある。
ベトナムウエハーが最初の試金石とするのが日本市 場だ。品質要求が最も厳しい市場で信頼を得られるか 否かが、ベトナム発の素材メーカーとしての存在感を 決める。

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